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日刊 温暖化新聞|あの人の温暖化論考

世界標準の温暖化対策ルール作りを先導する立場になろう!(COP17報告と日本の課題)/ 小西 雅子

南アフリカ・ダーバンで開催された国連の温暖化に関するダーバン会議COP17・COP/MOP7は、2週間の会期の最終日をすぎても議論は紛糾し、あわや決裂かと思われたが、2日延長後の未明になって「すべての国を対象とする法的枠組みへの約束が合意される」という劇的な展開となった。「ダーバン・パッケージ」と呼ばれるこの合意は、(1)京都議定書の延長と、(2)すべての国を対象とした新たな法的拘束力のある枠組みについて2015年までに合意することを主としている。

ダーバン・パッケージ

  1. 京都議定書第2約束期間の設定
  2. すべての国を対象とする法的枠組みを2015年に採択
  3. 緑の気候基金の基本設計に合意
  4. カンクン合意(測定・報告・検証制度や適応など)の実施
温暖化に関する各国の動き

先進国と途上国の対立で困難を極めた交渉が、
途上国のリードで進展

日本とカナダ、ロシアは京都議定書の第2約束期間に削減目標を持たないことを明示していたため、先進国だけに削減義務を課す京都議定書を死守したい途上国との間で、2週間にわたって交渉は困難を極めた。先進国側はすべての国を対象とした法的拘束力のある枠組みを求めていたが、急速に発展している中国やインドなど新興途上国は、自分たちが法的拘束力のある枠組みの中に取り込まれることを警戒して抵抗していた。一方、京都議定書の枠外にあるアメリカは、次期枠組みが先進国と途上国が同じ法的拘束力のある形でない限り、次の枠組みに合意しないと強く主張しており、アメリカを引き入れるためにも新興国を法的枠組みの合意に引き入れることが必須であった。そのためには交換条件として途上国が強く望んでいる京都議定書の延長について検討しなければならず、最終的にEUだけがこれに応じ「すべての国が参加する法的枠組み」の合意のために戦う構図となった。

硬直した交渉が最初に動きをみせたのは1週目の終わりに、中国が法的枠組みに合意する構えをNGOとの会合やメディアとの記者会見で見せたとき。2週目の半ばには、温暖化の影響に弱い島嶼国グループと後発開発途上国グループがEUと合同で声明を発表し、先進国が京都議定書の第2約束期間のための改正に合意すると共に、新興国に対しても、法的拘束力を持った枠組みへ向けての約束に合意することを促した。

画期的な次期法的枠組み(議定書)合意がなされた!

最終日の総会では、京都議定書に残ることを切り札に、途上国すべてが次の法的枠組みに参加することを迫るEUに対し、ベネズエラが「EUが京都議定書に残るといっても、目標のレベルは低すぎる。これでは途上国を温暖化の脅威にさらすだけ」と激しく攻撃した。他の先進国からのサポートが得られないEUが満身創痍で戦う中、今まで国連交渉で一枚岩となって戦ってきた途上国側が割れ、島嶼国グループの議長であるグレナダや低開発途上国グループなど途上国側が次々に立ち上がって「EUは、他に京都議定書から逃げ出す先進国がいる中、唯一残って、法的拘束力のある議定書を守ろうとしている。ここでEUを責めて交渉決裂を招くのは誰のためにもならない。温暖化を防ぐ、という目的に照らせば、今とるべき行動は明らかだろう」とEUをサポートしたのだ!

しかし、最後の最後まで新しい枠組みが法的拘束力を持つことに難色を示したのはインドで、まだ多くの民が貧困に苦しむインドの現状を訴えながら、「"先進国と途上国の間の衡平性"が文書に入らない限りのめない」と激しい口調で拒否した。結局、南アフリカの女性議長が会議を中断して、EUとインドとが10分間直接話し合うことを提案し、「協調の精神で、世界が必要としている結果を出そう」 と説得した。時はすでに2日延長後の午前3時、疲労困憊した総会参加者数千人が固唾を飲んで見守る中、EUとインドの代表の直接対話が行われた。そして50分後に会議が再会したときには、インドは妥協を表明! EUも受け入れて、奇跡的に2015年にすべての国が参加する法的枠組みの約束が合意された! 交渉決裂かと思われた長い焦燥のときを経ての感動的な合意であった。

会議を中断して直接対話するEUとインド代表 © WWF Japan

会議を中断して直接対話するEUとインド代表 © WWF Japan

削減目標レベルを引き上げることが最大の課題

画期的な合意だが、肝心の削減目標の引き上げについては議論すらされず、全体としての削減目標レベルは低いままに留まってしまった。カンクン合意に各国が公表している削減目標は、全体として足し合わせても産業革命前に比べて3度から4度もの上昇になる可能性がある低いレベルである(Climate Action Tracker)。今回のダーバン合意にも明記された「2度あるいは1.5度未満」に抑えるためには、会期中に国連環境計画(UNEP)が発表したレポートによると2020年時点における削減量が60億トンから110億トン(CO2換算)も足りない。

しかしダーバン合意の中に、足りないことを認識し、ダーバン作業部会のプロセスにおいて目標レベルを引き上げることが明記され、作業計画を作ることが決定された。ワークショップを開催し、足りない分を埋める選択肢を提示していくことになった。

今後実際に目標レベルを上げていく道筋と手法をいかに作っていくかが最大の課題である。

UNEP2011, Bridging the Emissions Gap

COP17における日本の交渉と課題

COP15以来、温暖化の国際交渉においても中国やインドなどの新興国の存在感が圧倒的に増している。経済発展とともに国際的な排出量削減責任も担う姿勢も徐々に見せ、今回のCOP17では、とうとう法的枠組みへの参加を受け入れた。またEUの温暖化対策先進国ぶりも改めて世界に焼きついた。一方、相対的に日本の影響力が低下したのを強く感じたのも今回のCOP17であった。

すべての国を対象とする法的枠組みの合意のために激しい議論が戦わされた上記の総会で、日本が発言したのは「京都議定書の第2約束期間に目標を書き入れないことを書面で提出する」という一言のみ。結果として日本は自らが主張していた「すべての国を対象とした法的枠組み」の合意は得たこととなるが、日本がこの合意に貢献したかと問われれば、大きな疑問符がつく。途上国が望む条件であった京都議定書の第2約束期間の目標否定によって、日本はもはや交渉の主要プレーヤーではなくなり、他の締約国からの関心が非常に低くなったからである。

今回の決定を日本の視点から見ると、日本は2013年から次の枠組みが発効する2020年以降まで、国際的な法的拘束力のある削減目標を持たない国になる。国内においても未だに温暖化の目標を設定した国内法は成立しておらず、国内でも法的拘束力のある目標がないことになる。今まで京都議定書があるからこそ進んできた日本の温暖化政策の過程を考えると、今後の後退が懸念される。

世界標準の温暖化対策ルール作りに積極的に参加を

そもそも京都議定書は削減義務だけの話ではなく、世界共通の温暖化対策ルールを制定した条約である。CDMなど京都議定書の下の市場メカニズムはすでに世界で大きな市場を形作っている。京都議定書で数値目標を持たない日本がCDMなど今後も活用可能なのかどうかも、今の段階では曖昧なままで、日本の産業界にとって非常に先行きが不透明になってしまった。ましてや、京都議定書の次の期間に目標を持たない日本が、2012年すぐに始まる次期枠組みのルール作りに影響力を持って参加することは非常に困難であろう。世界の環境外交の場における存在感低下は日本にとって得策ではないと憂える。

京都議定書から離れることは、いわば世界標準の温暖化対策ルールから離れること。21世紀の社会にとって低炭素化が不可避と心得るならば、先んじて世界共通の温暖化対策ルールを自国の産業にとって使いやすいように、積極的にルール作りに参加していくほうが得策ではないだろうか。 今からでも遅くない。次期法的枠組み成立まで京都議定書でつなぐことも検討してはどうか。国内法のすみやかな制定とともに、世界共通の温暖化対策ルール作りをリードする日本でありたい。

番外編:女性が活躍したCOP17

今回のCOP17では、女性の代表の活躍が目立った。まず気候変動枠組条約の事務局長はコスタリカ出身の女性、COP17ホスト国南アフリカの議長も女性大臣、今回の合意の立役者のEU代表も有名な女性大臣、EUを激しく攻撃したベネズエラも女性代表、そして最後まで抵抗を示したインドも女性大臣であった。丁々発止とやりあう国連の総会の場で、時に冷静に、時に激して、時にしたたかに、国益をかけてぶつかりながらも世界正義のために戦う彼女たちは、それぞれ特徴的な衣装を身に着け、実に美しく堂々と渡り合っていた。

会議直後に拍手する気候変動枠組条約事務局長のフィゲレス(左から2番目)と、優雅に微笑む南アフリカ議長のマシャバネ(中央)© Leila Meid,IISD

会議直後に拍手する気候変動枠組条約事務局長のフィゲレス(左から2番目)と、優雅に微笑む南アフリカ議長のマシャバネ(中央)© Leila Meid, IISD

国益がぶつかる世界交渉の場は、日常からかけ離れた世界に思えるかもしれないが、最終的には人間同士の話し合い。不思議にそれぞれの交渉官の人間性が見えてくる。国益を第1義としていても、地球益を考えるからこそ行われる交渉、最後は人間的な良心で落としどころが決まっていく。それをまとめていく立役者は、やはり誰もが認める"人格者"の交渉官たちなのだ。

たまたま今回のCOP17では、それが女性たちであった。しかし歴史をひもとくとき、近代の世界では政治も経済も男性が主役であったことを考えると、世界は急速に変化していることを感じる。翻って我が国、日本はどうか?

温暖化の国際交渉に限らず、グローバル世界のキーワードの一つは「多様性」である。女性の活用、というのは多様性のほんの一歩にすぎないが、COP交渉において日本の代表団には女性が極端に少ないことが気にかかった。京都議定書第2約束期間への目標提示を頑なに拒否し続け、世界の交渉進展には関知しない、という"柔軟性"に欠けた交渉姿勢は、やはり多様なバックグラウンドの人材が議論を尽くした結論ではなかったからではないだろうか?

欧米も新興国も女性の活躍が目立つ。日本においても堂々とした女性代表と女性参謀たちが活躍する日が来ることを夢見る。

(2012年1月30日)

小西 雅子

 

Profile

小西 雅子(こにし まさこ)
WWFジャパン自然保護室 気候変動・エネルギー プロジェクトリーダー、
日本気象予報士会副会長、桜美林大学講師

神戸大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修士課程終了
中部日本放送アナウンサーを経て、1997年気象予報士取得、2002年国際気象フェスティバル・パリ大会「ベスト気象キャスターグランプリ」受賞。2005年9月から現職、京都議定書会議参加など国際交渉と国内排出量取引制度などの気候変動の政策提言に従事。
「エネルギー問題はそのまま地球温暖化問題。日本の2020/2030年のエネルギーミックスの選択は、温暖化対策との両立が不可欠」 近著『地球温暖化の目撃者』(毎日新聞社2011)で世界に広がる温暖化の影響をカラー画像とともに紹介、温暖化の視点の重要性を訴えている。

『地球温暖化の目撃者』(amazon)

 
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